「此の世界は第六天の魔王の所領なり。一切衆生は無始以来、彼の魔王の眷属なり。六道の中に二十五有（罪福の軽重の段階）と申す籠をかまえて一切衆生を入るのみならず、妻子と申す絆しをうち、父母・主君と申す網を空にはり、貪・瞋・癡の酒をのませて仏性の本心をたぼらかす」兄弟抄

　このお手紙は、池上兄弟と父親の宗教上の対立に、法華経信仰を貫くことこそ真の孝養であることを諭したご文章の一節である。「此の世界」とは三界の中の「欲界」のことであり、第六天の魔王とは欲界の最上位、化他自在天・別名閻魔法王のことである。悪魔魔障は釈尊成道の時から一切衆生を欲界に留めようと仏道修行に降り注いでいる。まさに「魔競はずは正法と知るべからず」である。

　日蓮大聖人は四苦八苦の試練に満ちた欲界にある末法の我々の為にお題目の救いを教示された。「本門の本尊」と「本門の戒壇」と「本門の題目」のいわゆる三大秘法である。その三大秘法の本尊である「第一の本尊」には他の大曼荼羅には書かれていない「閻羅十王等」が入っておりその横に四徳波羅蜜の楽波羅蜜を示す陀羅尼品の「修行是経者　令得安穏」が添えられている。

　第十六天の魔王も末法の衆生である我々が唱える三大秘法のお題目によって自らの仏性を開くのである。そして法華経の譬喩品第三に説かれる「今この三界はみなこれ吾が有なり　その中の衆生は悉く皆これ吾が子なり　しかも今此の所は諸々の患難多し　唯我一人のみよく救護をなす」の如くに妙法五字の光明に照らされて悪魔魔障は超克されるのである。