⑳一念三千(その壱)

 生物学の中に「分子生物学」という分野がある。これが一念三千と如何に繋がるかを考えてみたい。

 

 分子レベルで考えた場合、人体の構成要素は水分(約 60%)、タンパク 質(約 15%)、脂質(約 12 から 20%まで)と表すことができる。さらに、元素レベルで考える と、我々の身体の構成は、酸素・炭素・水素・窒素でおよそ 95%が占められている。

 

 人間をはじめこの地球上に生きとし生きるすべての生物は、他の動植物を摂取する事により成長ならびにその個体の命を維持することが出来る。また、植物は太陽の光による光合成と大地からの水と養分で成長・維持をしている。特殊な例として昆虫等を摂取する食虫植物の類も存在する。動物は呼吸により酸素を摂取し二酸化炭素を排出し、植物は二酸化炭素を摂取し、酸素を排出するという事は小学校の理科の授業で学ぶ。

 

 今日食べた夕食は、炭水化物は体内で糖に分解され、タンパク質はアミノ酸に分解され、脂肪は脂肪酸とモノグリセリドに分解されるなど、より小さな化合物に分解されて吸収され、分解により生じた分子や原子は身体の隅々まで巡っていき、再び身体の各部を構成する物質に合成されて、それぞれの部位に止まる。食べた物だけでなく、呼吸によって空気から取り込んだ物質も同じである。

 

 そして同時に、身体のそれぞれの場所にあった物質の多くは再び分子や原子のレベルまで細かく分解され、そのあと尿・便・髪の毛・皮膚の垢・汗・吐く息などの物質に合成されて外部の環境に排出されていく。こうして入る量と出る量とのバランスをとって体重を一定に保つのである。このように身体を構成している分子や原子は次々と入れ替わっている。このスピードは驚くべきもので、人体を構成する分子は、脳髄など一部を除き、そのほとんどが一年間でほとんど入れ替わるというのである。

 

 こうして私たちが排出した分子はバクテリアなど微生物の栄養となって取り込まれ、様々な植物の肥料となってそれらに宿ってゆき、さまざまな動物の食べ物となって、それらの体内に宿って行く。このようにして私たちが排出した分子は様々な生命の中を次々と駆け巡り、やがて地球全体に広がって行くのである。

 

 太古以来、すべての生物は太陽エネルギーの恵みを受けて分子を遣り取りし、その遣り取りによって生命を維持している。これらのことは、「すべては個別に存在しているのでなく、すべては互いに宿り合って一体である」という一念三千の教理に通じているのである。つまり「すべての存在は分子を共有しあって同体である」と受け止めることができる。

 

 そのことに気づいた時に、すべての存在に感謝と慈しみと敬いの心が生まれる。