1987年1月3日(日) マドラス2日目

 昨晩、電気と天井の扇風機をつけたまま一度眠ってしまったため夜中に目が覚め、少し寝付けない状態となる。浅い眠りを繰り返すうちにいろんな夢をみる。単純に今まであったことや昼間考えてしまったことが次々と物語の短編として展開される。それ以外脳に刺激がないらしい。

 

―ミッドナイト・ゾーン―

 

その1 『パスポート』

 

 いきなりアフリカの小さな国にやって来る。どれくらい小さな国かというと、川に沿って幅数メートル、長さ100メートルくらいの「国」である。その国へ入国する。入るのは問題ないが出る時、国境の手前でジープの横に乗っていた頼りになるはずの誰かが運転席から飛び降りる。僕は助手席に座ったままゆるいスピードでトロトロと国境のゲートに「突っ込む」。そこで、出国のスタンプをもらうために当然手こずってしまう…。

 

その2 『ホテルの部屋』

 

 場所は南インド。居心地の良いホテルに長期滞在し、ホテルの人たちとかなり親しくなっている。部屋は今いるこの部屋がモデルになっている。しかしホテルは都会の中ではなく、片田舎の平屋造りである。少年が何人かいてここの少年がモデルだが彼らではない。ただそれだけの話…。

 

その3 『販売会』

 

 やはりホテルに滞在中の出来事。そのホテルにはどういうわけか日本間があり、そこに日本からのツアーの団体が和机に胡坐をかいたりして10人程座っている。覗いてみると某デパートの外商の人とお得意様一向らしい。外商の人というのは僕の知っている人がモデルになっているが本人ではない。こんな調子ですべて架空の人物で本人が出てこないところが不思議である。その人たちと話をし「こんなインドのケララまで販売会とは大変ですねえ」などと言う…。

 

その4 『金縛り』

 

 いきなりこの部屋へ戻ってくる。これは夢ではない。手足4本が浮くような感じで自分の意志ではどうにもならない。そのままなるにまかせれば体ごと宙に浮いてしまう感じである。そうしてしまおうかと思うが、やはり抵抗して腰だけ落としている。もがこうにも動けない。以前の経験からフーッと息を吹こうとするが、今回はそれも出来ないようにされている。完全に「ヤツ」の術中にはまったらしい。一体どうするつもりか。意識だけはまだ自分でコントロールできる、これは夢ではない。などとほざいているうちに目が覚める。これは夢であった。

 

―THE END―

 

マハバリプラム画像検索より
マハバリプラム画像検索より

 というわけで起床は少し遅めの7時頃。チャーイ少年のノックで寝床をでる。顔を洗い下のレストランでオニオンドーサとコーヒーで朝食。バス・ステーションまで歩いてゆく。マハーバリプラム行きのバスをなんとか見つけ出発を待つ。その間、物売りついでのスクールペン少年がくっついてくる。キャップの無くなったボールペンをやると、それを豆売りおじさんにやってしまい他のペンをくれという。スクールペン(勉強のため)と言うのは口実で彼は高く売れるのが欲しいらしい。でもなかなか明るい少年で憎めない子供である。指のない男に50パイサやると彼もあきらめたようだ。

 

 マハーバリプラムまで1時間半。海岸が近付くとベンガル湾の水平線とヤシの葉でつくった小屋の集落が点在し、ずっと風景を楽しむ。すごく満ち足りた気持ちにしてくれる。その集落は砂地の中の木立のあるところに在り、家の周りはやはりヤシの葉の囲いをつくり、庭をきれいに掃いており、居心地がよさそうだ。こんな処に住んでみたいと思う。子供達は腰にひもを付けただけの裸で遊んでいる。

 

 マハーバリプラムのバス停でコーヒーを飲み、まず東にある海岸寺院に向かって歩く。途中、手相屋が座っているのが目にとまり20ルピーで手相なるものをはじめて見てもらう。手のひらを上にし、両手をひろげた形で彼の観相がはじまる。ハッキリ言ってgoodが多すぎる。なんもかんもgoodである。全く幸せだ。具体的には85歳までの長寿だそうである。金運・仕事・家庭は前述の通り。35歳の時1つ外国語を身につけるよう努力しろという。結婚は今までの出会いはすべてfinish。30歳の後半に新たな出会いがあるという。少し早すぎるような気もするが期待しておこう。そして、僕は静かな心の人間であるという。

 

 まあ占いは受け取り方によって当たっていると感じるようにしゃべっているのだろう。20ルピーを払って合掌し「日本に帰ったらお坊さんになるよ」と言ったらキョトンとした目をしていた。少し歩いて振り返ると木の下にいた彼の姿は既に見えなくなっていた。

 

マハバリプラム画像検索より
マハバリプラム画像検索より
海岸寺院のスケッチ
海岸寺院のスケッチ

 海岸寺院は思っていたより小さなお寺。先に寺院の中に入りそれから海岸の岩を積んだ場所に座る。ベンガル湾の水平線がクッキリ青く広大にひろがり風が心地よい。寄せては砕ける波が「オーム」と響く。ここに座っているだけで脳波がαになってしまう。このノートを開いて寺院をスケッチする。

 

 2人のインドの若者がやって来てインドの印象などの話。その1人が自分の会社の名刺をくれ機会があればまた、といって気持ちよく別れる。昼食はSUN RIZEレストランでプラウンカリー。久しぶりのシーフードはなかなか美味しかった。

 

 そのあと今度はバス・スタンド裏の石窟寺院を見て燈台に登る。ここからは更に水平線とインドの大地が見渡せ素晴らしい眺めである。こうやってマハーバリプラムで一日を過ごし、午後4時過ぎにマドラス行きのバスに乗り戻ってくる。先にホテルでシャワーを浴び今日は近くのレストランでエッグビリヤー二とローストチキン。17ルピー50パイサ(約230円)でなかなか満足してしまった。

 

 明日一日は何をするかは未定。洗濯をしたりしてのんびりしようかなどと思っている。