法華経を学ぶ

「妙法蓮華経序品(みょうほうれんげきょうじょほん)第一」


お釈迦様は、現在のネパールに位置するルンピニーの花園で、釈迦族の浄飯(じょうぼん)王と摩耶(まや)夫人の間にゴータマ・シッダルタ王子としてお生まれになられた。


皇太子として成長し、ヤショーダラ妃と結婚をしてラーフラという男の子が生まれた。
しかし29歳の時、一切衆生を生老病死などの苦しみから救う為、真理を求めて出家をし、6年にわたる修行を経て、35歳の時にブッダガヤの菩提樹の下でお悟りを開かれたのである。

経典編纂の為の第一次結集が行われたラジギール七葉窟

それから80歳でそのご生涯を閉じられるまでの45年間にわたり、祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)や竹林精舎(ちくりんしょうじゃ)などの修行のためのお寺や、霊鷲山(りょうじゅせん)という山上、また乞われるままに出向いて国王を始め貴族や長者、町の商人、村の農夫と分け隔てなく平等に教えをお説きになられた。

その教えが、お釈迦様亡きあと仏弟子たちによって伝承され文字となり、インドから中国に渡って現代の私達には難解な漢文に翻訳されそのまま日本に伝来した。

 しかし、本来お釈迦様は、わかりやすい話し言葉で教えをお説きになられたのである。
その経文の始まりは如是我聞(にょぜがもん)で始まる。

序品第一の大意


お釈迦様から私はこのような教えを聞いた。

お釈迦様がマガダ国の都、王舎城(おうしゃじょう)の霊鷲山に居られた時、たくさんの修行者をはじめ一切の生きとし生けるものが集まっていた。
出家をして修行を積み、迷いを離れた阿羅漢(あらかん)と呼ばれる仏弟子たち。
良く身を修め仏の智慧を得て人々を救う菩薩衆(ぼさつしゅう)。
さらに天上界の神々、竜王や阿修羅(あしゅら)、諸々の鬼神。
そして国王や家来などの民衆が一同に会した。

その時お釈迦様はそれまでに説いた無量の教えの総括をし、禅定(ぜんじょう)を組んで深い瞑想(めいそう)に入られた。
すると天から白や赤の蓮の花びらが、お釈迦様をはじめ人々の頭上に降り注ぎ大地が緩やかに揺れた。
この不思議な出来事に人々は歓喜し合掌し、一心にお釈迦様を見つめた。

お釈迦様は眉間(みけん)から光を放ち、東の空一面に無数の世界を照らし出した。
そこには地獄から有頂天(うちょうてん)に至るこの世のあらゆる有様、修行を積むもの、菩薩として衆生を救う者、また涅槃(ねはん)に入る仏とそれを供養(くよう)する人々である。

その時、未来の仏と誉(ほまれ)の高い弥勒菩薩(みろくぼさつ)が皆と共に疑念を抱いたのである。
お釈迦様は何故このような不思議な相を私達に示すのであろうか。そしてこの事を、今まで長い長い間修行を積んできた文殊菩薩(もんじゅぼさつ)に問うたのである。
これに対し文殊菩薩は弥勒をはじめ皆に対し、この瑞相(ずいそう)は今からお釈迦様が悟りのままの真実の教え「法華経(ほけきょう)」を説かれる為のものであることを明かす。
というのも過去の諸仏に於いても同じようなことがあったからである。

すなわち遠い過去に仏がおられた。名を日月(にちがつ)燈明(とうみょう)如来(にょらい)という。
仏法を説き入滅を繰り返すこと二万仏、その最後の仏がまだ出家する前に八人の王子がいた。
父王が悟りを開いたことを聞き八人の王子も皆出家して修行を始めた。
この時、最後の日月燈明仏は無量の教えの総括をし、今のお釈迦様と同じような瑞相を示された。

この時、妙光(みょうこう)という菩薩(ぼさつ)がおり八百人の弟子があった。
日月燈明仏は妙光菩薩(みょうこうぼさつ)に寄せて法華経を説き、徳蔵菩薩(とくぞうぼさつ)に次の成仏の預言を与え入滅された。
その後、妙光菩薩は長い間法華経を説き、八人の王子も妙光菩薩について成仏した。その八人の最後に成仏した仏を然燈仏(ねんとうぶつ)という。
妙光菩薩の八百人の弟子の中に、欲望の強い求名(ぐみょう)という者がいた。実は妙光菩薩は私、文殊師利であり、求名とは汝、弥勒のことであると過去をあかし、故に今のお釈迦様もこれから法華経を説かれるであろうと語ったのである。

 

日蓮宗修養道場(石川道場)述

 

眉間白毫(みけんびゃくごう)の光が写すもの


法華経の序品に於いては、お釈迦様は一言も法を説かず、眉間の白毫相という渦巻き状の毛の辺りから光を放たれ東方の1万8千の世界を照らした。

経典では東方は過去を暗示し、西方は未来を暗示する。お釈迦様は無量の世界の衆生の過去世の有様を映し出したのである。

そこには地獄(じごく)・餓鬼(がき)・畜生(ちくしょう)・修羅(しゅら)・人間・天上の六道輪廻(ろくどうりんね)の世界、そして声聞(しょうもん)・縁覚(えんがく)・菩薩(ぼさつ)・仏の四聖界(ししょうかい)を加えた十段階の世界である十界でのそれぞれの過去世の生き様や様々な菩薩の修行の姿が、霊鷲山に集まった全ての衆生に示されたのである。

日月燈明如来という仏様


夕陽に浮かぶインド ブッダガヤーの大仏と仏弟子の像

 

私達の暮らす地球は、想像もつかぬ程広大な宇宙に浮かぶ太陽系の惑星である。
現代宇宙科学の説によれば、約137億年前のビックバンという宇宙開闢(かいびゃく)以来、およそ80億から90億年を経て約50億年前に我々の太陽系と地球が形成されたという。
それ以来50億年近い気の遠くなるような時間の中で地球は自転しながら太陽の周りを1年かけて公転し、月は満ち欠けを繰り返しながら地球の周りを廻っている。


地上のあらゆる場所で太陽は1日の始まりを告げ、月は闇夜を照らす。
遠い過去に2万回にわたり出現された仏様の名は、宇宙の神秘を暗示するが如く日月燈明如来であり、その無数の仏様の教えがすなわち法華経なのである。

弥勒と文殊の問答


弥勒は56億7千万年後の未来に仏として現れるとされている菩薩である。

その弥勒菩薩が霊鷲山に集まった大衆を代表して、過去世に修行を続けてきた文殊菩薩にお釈迦様が示す神変の相の因縁を問うのである。
そこで日月燈明如来のもとで法華経を修行した妙光菩薩が文殊であり、名声を求める弟子の求名が実は弥勒であると弥勒と文殊の過去世が明らかにされ、一人ひとりが自らを顧みることから法華経は始まるのである。

2002年11月 第1回 龍泉寺仏蹟参拝旅行の際 インド霊鷲山にて 旭日に向って唱題

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